2012年10月28日日曜日

薬物配合法則 第1回


構成生薬数が少ないほど切れ味は増す

漢方薬は1~十数種類程の生薬の組み合わせで出来ている。
難しい症例の場合、どうしても構成生薬が増えてしまうし、
特にエキス剤の場合は入っている生薬を抜くことは出来ないので、合剤という形で、
どんどん構成生薬が増えてしまう。
単純に考えると、構成生薬が多ければ多いほど、いろいろな症状に効果が出て良いように思えるかもしれない。
しかしこれは大きな間違いである。
構成生薬が増えれば増えるほど、証が複雑になり、効果が出る人は少なくなってくる(※今回は触れないが、複雑な複数の疾患がある場合は治療優先順位に従わなければならない)。
簡単にあらわせば下図のとおりである。
引用:証と方剤学体系 玉城博任著

A剤とB剤を合わせると、AとBの対症となる証を持ちつつ、A剤とB剤の共通の適応症状にしか効果がないと言うことである。
処方が大きくなるほど、治療対症は狭くなっていく。
日本では、古い処方のエキス剤が主流で用いられている。限られた処方数で、治療対症も限られている。そのために合剤を用いるケースが多い。ときの4種類、5種類と使われているのを見かける。はっきり言って効くわけもなく、実際効いてもいない。
効かないからこういうことになってしまったのであろうが・・・


漢方薬は生薬の相互作用を利用している


漢方薬は複数の生薬の組み合わせで出来ている。これは単純な足し算ではない。
西洋薬にも相互作用はあるが、多くは不利益な作用であり、意図的に利用しようとすることは希である。
漢方では相互作用を利用することで、より有効な効果を発現させている。また相互作用の組み合わせを利用することで、方剤を形成させているとも言える。
例えば麻黄+杏仁は実証の咳、喘息に、それぞれ単独で用いるより相乗的に効果的である。
寒証であれば桂枝を、熱証であれば石膏を加え急迫症状を和らげる甘草とあわせて、
それぞれ麻黄湯、麻杏甘石湯となる。

相互作用の種類

相須:同じ性質の生薬を組み合わせることで作用を増強させる
相使:違う性質の生薬を組み合わせることで一方の生薬の効果を増大させる(使薬の働き)。
相殺:ある生薬が他の生薬の中毒反応を除去する。相畏の軽いもの。
相畏:ある生薬が一方の生薬の有害成分を減少抑制することによって有害作用が起こらないようにする。
相悪:2種類の生薬が一緒になることによって両方とも効果がなくなること。
相反:2種類の生薬が一緒になることで、はげしい副作用や毒性が出ること。

つづく




2012年10月2日火曜日

当帰に関する考察

当帰の主な作用

1.補血

 いわゆる補血・活血の効能である血を量的、質的に補うことであり、単に貧血を治すという意味とは異なる。数値化しやすい量的な異常に注目する傾向の強い西洋医学とは異なり、質的な異常重点に置くのが漢方、中医学の特徴とも言える。
  
 病態側から見れば血虚を改善すると言うことである。当帰のみでも効果はあるが、地黄、芍薬、特に芍薬との併用で補血の効果を十分に発揮させることが出来る。
  
 血虚の主な症状は、顔色が悪い・皮膚につやがない・口唇があれる・爪がもろい・目がかすむ・目が乾く・目がくらむ・頭がぼーっとする・ふらつく・動悸・四肢のしびれ感・筋肉の引きつり、けいれんなどである。また、舌質は淡白・脈は細などの徴候を示す。

2.調経

 月経の調整作用である。ただし月経不順になる要素はいくつもあり、それが絡み合って起きているのが普通である。当帰の働きは基礎的な部分での作用と言える。

3.活血止痛

 疼痛は血瘀と気滞が関係する。
うっ血、出血、打撲など瘀血を除くことで軽減する痛みである。
もうひとつ、散寒止痛による効果がある。寒冷や飲食物による冷えで起きる痛みに対する効果である。

4.潤腸通便

 当帰の持つ重要な作用のひとつである。
かなり漢方に通じた専門家でも多少なり西洋医学を学んでしまっている人は安易に瀉下通便に走ってしまうことが多い。
明らかに寒虚証であるのに大黄、芒硝を使ってしまう。
大黄が用いられない便秘、すなわち血虚による腸燥便秘である。当帰は腸内を潤して排便させやすくする。滋潤・栄養により腸を元気にさせる効果である。長年の瀉下剤使用により疲弊した腸を回復させるにも有用である。

副作用について

ツムラの添付文書によると
主な副作用として、発疹、かゆみ、体がだるい、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢・・・とある。
発疹等に関してはすべての処方に書かれている事で、特異な例として良いと思う。
問題は胃腸症状である。
基本的に当帰は脾陽虚・脾気虚には用いない。症状を悪化させるからである。
上記の副作用症状はすべて脾虚の症状である。簡単に言ってしまえば誤治である。
もうひとつ問題としてはエキス剤の問題である。エキス剤に用いる当帰は、そのまま乾燥しただけの修治をしていない当帰である。酒炙・酒洗の修治をしていれば起きない問題でもある。

あるサイトに当帰の副作用、注意点として次のように書かれていた。
1,長期間あるいは多量に使用すると、咽喉痛・鼻孔の灼熱感などの症状があらわれることがあります。
2,活血の効能が強いので、性器出血過多には使用しない方がよいです。
ひとつめは傷陰である。何も考えずに辛温剤を長期間使ったことによって起きた明らかな誤治。
二つ目は、もともと心肝火旺。陰虚陽亢に用いたために起こった誤治。

漢方の勉強をしても、生薬・薬味の知識がないものが多すぎる。本来は副作用ではなく使い方が間違っているのに、副作用にされて本来必要な人に敬遠されるようなことがあってはきわめて残念なことだ。
漢方は、基礎理論→生薬学→方剤学の順にマスターすることが重要である。
日本では一部の方剤から憶え始めてしまうので間違いが生じやすいのではないかとも思う。

代表的な方剤に用いる当帰の修治方

防風通聖散
 熱実証の通便に用いるのだから、そのままの生当帰で構わない

五積散
 止痛が目的であり寒湿困脾の状態にある場合もありうるので酒炙当帰を用いる

四物湯
 エキス剤で胃腸障害を一番起こしやすい処方であろう
 補血目的なので酒洗当帰が通常である。便通がつきすぎるようなら酒炙当帰を用いる

補中益気湯
 脾虚で便秘のはずもないので酒炙当帰を用いる

芎帰膠艾湯
 止血目的であれば炭当帰もあり得る。補血が主目的であれば酒洗当帰

温清飲
 生当帰で構わない

抑肝散
 本来は当帰ではなく芍薬で良かったのではないかと思える。
 食欲不振がなく便秘するなら生当帰でも良い
 胃腸に不安があって便秘するなら酒洗当帰、便秘がないなら酒炙当帰

当帰芍薬散
 便秘するなら酒洗当帰、そうでなければ酒炙当帰

当帰健中湯
 酒洗当帰を用いる

加味帰脾湯
 酒洗当帰が基本となる