2013年12月10日火曜日

方剤の成り立ち〈基本方剤からの派生〉第3回


表証(膀胱経、肺経)の基本方剤につづき今回は裏証の基本方剤をまとめておきました。
各々の方剤の成り立ちについては追って詳説します。

            
        ┌─実── 大柴胡湯 ── 柴胡加竜骨牡蛎湯
        │
   ┌─ 熱──┤         ┌   柴胡加竜骨牡蛎湯
   │    └─虚 ── 小柴胡湯┤  
心  │                 ├  柴胡桂枝乾姜湯
心包─┤               │
胆  │                └ 柴胡桂枝湯
   │
   │               ┌ 苓桂朮甘湯
   │               │
   └  寒─── 虚 ── 桂半湯┼  香蘇散
                     │      ┌ 苓姜朮甘湯
                     └  小半夏湯┤  
                            └ 半夏厚朴湯
            
        ┌─実 ── 瀉心湯 ── 黄連解毒湯
        │
        │          ┌ 半夏瀉心湯 ─ 黄連湯
    ┌─熱─┤          │
    │   │          ├ 葛根黄連湯
胃   │   └─虚 ──補心湯─┤
小腸 ─┤              └ 黄連阿膠湯
三焦  │
大腸  │                     ┌ 桂枝加芍薬大黄湯  
    │
    │                     ├ 桂枝加竜骨牡蛎湯
    └─寒 ── 虚 ──桂枝加芍薬湯┤  
                          ├ 桂枝茯苓丸
                          │
                          ├ 安中散
                          │
                              ├ 平胃散
                         │     ┌ 黄耆建中湯
                         └ 小建中湯┤ 
                                 └ 当帰建中湯

                        ┌─┬ 麻子仁丸
               ┌燥─承気湯 ──┤ │
         ┌─実  ──┤        │ └ 大承気湯
         │     └湿─茵蔯蒿湯  │ ┌ 桃核承気湯
   ┌─ 熱──┤              └─┤
   │     │                └ 大黄牡丹皮湯
   │     │     ┌燥─白虎湯 ────  白虎加人参湯      
脾 ─┤     └─虚 ──┤        ┌── 猪苓湯    
   │           └湿─五苓散 ──┤     
   │                    └── 茵陳五苓散 
   │                 ┌───四君子湯──参苓白朮散
   │                 │
   └  寒─── 虚 ── 人参湯  │  
                     │   ┌ 大建中湯
                     └───┤  
                         └ 苓姜朮甘湯
              
                     ┌───  竹葉石膏湯   
              ┌燥─麦門冬湯┤   
    ┌─熱 ── 虚 ─┤      └──   清心蓮子飲        
    │         │
腎  ─┤         └湿─五苓散       
    │
                                                          ┌──   真武湯              └─寒 ── 虚 ──附子湯   ┤  
                     └──   八味丸
                           
                      ┌─   芎帰膠艾湯
                      │
           ┌─燥── 四物湯 ─┼─   十全大補湯
           │          │
肝 ── 寒──虚 ─┤          └─   人参養栄湯
           │
           │          ┌─   五積散
           │          │      
           └─湿── 当帰芍薬散┼─   逍遥散
                      │
                      └─   加味逍遥散

2013年10月6日日曜日

辛涼解表剤

辛涼解表剤
風熱の邪による表証の発熱・有汗・微悪風寒・頭痛・咽頭痛・咳および皮膚疾患に用いる。
辛・涼で発散に働く薄荷・牛蒡子・桑葉・菊花・葛根などを主体に、清熱解毒・透表の金銀花・連翹などを加えた方剤が基本となる。

主な辛涼解表剤
銀翹散

桑菊飲

麻杏甘石湯
 五虎湯

越婢湯
 越婢加朮湯

升麻葛根湯


扶正解表剤
虚証の外感表証に用いる

代表的な扶正解表剤
荊防敗毒散

十味敗毒湯

参蘇飲

麻黄附子細辛湯




2013年9月30日月曜日

辛温解表剤

解表剤とは発汗・解肌・透疹などの効能を持つ薬物を主体に作られた表証の治療を目的とした方剤である。
辛温解表剤・辛涼解表剤に分けられるが、別に虚弱者向けには扶正解表剤がある。

辛温解表剤
 風寒の邪によって引き起こされた表寒証の悪寒・発熱・頭痛・身体痛などを目標に用いる。
辛温解表薬:辛温解表剤は辛温解表の性質を持つ薬物を主体に作られる。
麻黄・桂枝・紫蘇葉・荊芥・羌活・防風・白芷・藁本・細辛・生姜・藿香・辛夷

主な辛温解表剤
・桂枝湯及び桂枝湯派生方剤
 桂枝加厚朴杏仁湯
 桂枝加葛根湯
 葛根湯
 葛根加半夏湯
 桂麻各半湯
 桂枝加黄耆湯
 桂枝加朮附湯
 
・麻黄湯及び麻黄湯派生方剤
 三拗湯
 華蓋散
 麻杏薏甘湯

・大青竜湯

・香蘇散

・小青竜湯
 

2013年9月25日水曜日

肝火上炎

肝火上炎(かんかじょうえん:肝火・肝火旺)
肝の陽気が過亢進した状態で、実証のみである。
肝気鬱結が助長して起きることが多いが、急激な情緒的興奮により生じることもある。
長引けば陰液を傷め肝陽上亢へ移行する。
神経症、高血圧、肝炎、胆嚢炎などの疾患に見られる。

主症状
いらいらが強く怒りっぽい・入眠困難、悪夢を見る、激しい頭痛、めまい、耳鳴り、突発性難聴、目の充血、口が苦い、呑酸、口渇、便秘など

治法
清肝瀉火
方剤
竜胆瀉肝湯、当帰竜薈丸

※心火旺の場合も不眠や興奮、いらだちが見られるが動悸を伴い、肝火上炎では眼の症状(充血など)、心火旺では舌に異常が見られる。


2013年9月16日月曜日

肝気鬱結

肝の病態の中でも肝気鬱結は最も多くみられるものの一つであろう。
肝気鬱結は肝の疏泄機能の失調であり、もともとは精神的な緊張・情緒の変動など、言い換えれば現代人のストレスに起因する病態であるので、多くの疾患を引き起こしている。
自律神経失調症・うつ病・神経症・消化性潰瘍・肝炎・胆嚢炎・子宮内膜症・子宮筋腫・甲状腺疾患等でみられる。

症状
憂鬱感・情緒不安定・ヒステリー・しゃべりたがらない・ため息が多い・胸脇部の張り痛み・胸苦しい・食欲不振・嘔気・便がすっきり出ない・便秘下痢を繰り返す・頻尿など

論治
疏肝理気・解鬱
柴胡・欝金・青皮・枳殻・枳実・川楝子(せんれんし)・香附子・厚朴・延胡索・烏薬などの疏肝解欝・理気の薬物を中心に用いる。
また肝気鬱結が続くと肝熱が生じ肝の陰血を消耗させるので、白芍・当帰・熟地黄・枸杞子などの補血薬を配合する。
また痰を伴うことで梅核気や甲状腺腫の原因となるので半夏・竹茹などの化痰薬を、血瘀と結びつくと子宮筋腫や子宮内膜症の原因となるため牛膝・桃仁・紅花等の活血化瘀薬をともに用いる。

四逆散・柴胡疎肝湯・逍遙散・大柴胡湯・柴胡桂枝湯

2013年9月8日日曜日

肝陰虚について

肝陰虚・肝陽上亢
肝陰の不足であるので相対的に肝陽上亢となる。
虚熱が大半であるので、肝火上炎のように積極的・一方的に冷やすわけにはいかないので注意が必要である。
肝陰の不足は腎陰不足と共に起きることが多く、
実際の病態としての肝陰虚は肝腎陰虚がほとんどとなる。

主な症状
口や喉の渇き・身体の熱寒・ほてり・のぼせ・ねあせなど、
肝腎陰虚では、これに腰や膝の無力感・手足のほてり・頭のふらつき・健忘・性機能異常などが見られる。
肝陽上亢が顕著だと目の充血やイライラ・怒りっぽい・のぼせ・めまい・耳鳴りなどが見られる。



治法
滋陰・平肝潜陽
滋陰薬:玄参・生地黄・天門冬・麦門冬・女貞子
滋陰潜陽薬:亀板・鼈甲・牡蛎・磁石
平肝潜陽薬:石決明・真珠・竜骨
清虚熱薬:牡丹皮・知母・白薇・銀柴胡・地骨皮


2013年8月25日日曜日

肝血虚

肝血虚とは、そのまま肝血の不足のことをである。
肝血は血の中でも滋養・栄養効果という面で捉える場合を指す。
肝血の不足は栄養障害、特に視覚の異常・筋肉の異常・皮膚の異常、そして月経・妊娠の異常に関わってくる。
    肝の生理


主な症状
 顔色や皮膚の色が悪く艶がない・爪がもろい・毛髪に艶がない・毛髪が抜ける・目の疲れ・目の乾燥・眩しい・眠りが浅く夢が多い・手足のしびれ・筋肉のひきつりなど、
月経では経血量が減少し、これは子宮内膜を正常に保てないことを意味します。

治法
 滋補肝血
当帰・芍薬・熟地黄・阿膠・何首烏・早蓮草・桑椹などの補血薬に川芎・鶏血藤・赤芍などの活血薬を加える。

2013年8月6日火曜日

心火・心火旺

一言で言えば心の働きが過剰になっている状態である。
過亢進であるから熱証であり、実証が大半である。
過度の精神ストレス、刺激物の過量摂取などが原因である。
主な症状
寝付けない・夢が多い・顔面紅潮・焦燥・じっとしていられない・動悸・胸が熱苦しい・口渇・口内炎・舌炎・甚だしい場合は狂躁状態や精神異常を呈する。
現代的な病名で言えば自律神経失調症・不眠症・統合失調症・神経症など


治法
清心瀉火
実熱であるので、とにかく冷やして除くだけである。
代表方剤
三黄瀉心湯・黄連解毒湯

2013年7月29日月曜日

心血虚と心陰虚

心血虚の症状
 寝付きが悪い・よく目が覚める・夢をよく見る・朝早く目が覚める・驚きやすい・不安感・悲しい・健忘・めまい・頭がふらつくなどの精神神経症状が主で、動悸を伴うことが多く顔色がさえない・舌質は淡白・脈は細。
心陰虚の症状
 のぼせ・焦燥・手のひらや足のほてり・口や喉の渇き・めあせ・舌質は紅絳で乾燥・脈は細あるいは浮数で無力。

治法
心血虚:補血安神
心陰虚:滋陰安神

代表方剤
 心血虚:帰脾湯・甘麦大棗湯・酸棗仁湯
 心陰虚:天王補心丹・朱砂安神丸

心血虚・心陰虚では精神症状が主になる。
安神薬の用い方がポイントになるのかと思われる。

2013年7月23日火曜日

心気虚と心陽虚

心は血脈を主り、神を主る。
心に病があると血脈運行の障害や意識・精神の異常が起きる。

心気虚の主症状:動悸・息切れ・胸苦しい・倦怠無力感があり動くと増強する。
顔色は淡あるいは蒼白・不安感・めまい感・冷や汗・舌質は淡白・脈は沈で細弱あるいは結代あるいは数、甚だしい場合は胸内苦悶・狭心痛が生じる。
心陽虚の主症状:四肢の冷え・寒け・顔面蒼白・口唇や爪のチアノーゼ・舌質は胖大あるいは青紫・脈は沈遅で細弱あるいは結代。多くの場合、同時に胸内苦悶・狭心痛が発生する。(中医学入門:神戸中医学研究会編)

気虚、陽虚であるので寒証を示し、陽虚ではそれが顕著である。
心での気虚は、そのまま心臓の機能失調、循環機能障害と考えて良さそうである。
現代的病名で言えば、不整脈・心房細動・狭心症・心筋梗塞があてはまる。

虚血性心疾患は血瘀を主因として捉えたいところだが、心気虚から始まると考えるべきである。精神的な負荷や慢性疾患による衰弱などが重なる心の機能失調を起こすのかと思われる。

治法:補益心気、温通心陽
 補気薬:炙甘草・人参・党参・黄耆
 温通薬:桂枝・附子・肉桂・益知仁

代表方剤
 心気虚:四君子湯・炙甘草湯
 心陽虚:桂枝人参湯

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2013年7月9日火曜日

不眠の漢方的考察

睡眠は太陽が地平線に沈むように、陽気が陰に入ることである。
眠れないということは、陽気が何かに妨げられ陰に入れない、
あるいは陰血が不足しているために陽気を受け入れることができないためである。

不眠の原因を具体的に分けると
1,心血虚・心陰虚
   寝付きが悪い・よく目が覚める・夢をよく見る・朝早く目が覚める・驚きやすい
   心陰虚はほてり、のぼせなど虚熱症状が加わる。

2,心火(心火旺)
   実熱である。
   寝つけない・夢が多い・顔面紅潮・焦燥・じっとしていられない・動悸・口渇など

3,心腎不交
   心火旺と腎陰虚の症候が同時に見られる
   心火の症状に、ふらつき・耳鳴り・手足のほてり・のぼせなどの腎陰虚症状が加わる

4,痰火擾心
  肝鬱化火の結果生じた熱痰が心竅(脳の機)を閉塞するか、熱邪の侵襲によって津液が濃縮されて生じた熱痰が心竅を閉塞して生じる。
  統合失調症、脳梗塞などによる脳血管障害、発熱性疾患による脳症、てんかんなどの場合にみられる

5,肝陰虚
  肝陰不足のため肝陽上亢となる。熱虚証であり虚熱である。
  高血圧症・脳動脈硬化症・自律神経失調症・更年期障害・慢性肝炎・慢性腎炎・甲状腺機能亢進症など
  口や喉の渇き・体の熱寒・ほてり・のぼせ・ねあせなどがある。
  肝陽上亢が明らかな場合は、イライラや怒りっぽい、顔面紅潮やめまい感などが出る。 

6,肝火
  肝の陽気の過亢進によるもので、実熱である。
  自律神経失調症・高血圧症・神経症・胆嚢炎・肝炎などでみられる。
  いらいらが強く怒りっぽい・入眠困難、悪夢をよく見る・頭痛・めまい・顔面紅潮・便秘

7,心肝火旺
  肝火の症候とともに強い不眠・躁・動悸・不安など心火の症候がみられる。

8,腎陰虚
  慢性疾患や性生活の不節制・発汗や出血、下痢・ストレスなどにより陰液の消耗によって生じ る。

9,風痰上擾
  
・不眠症に効果があると考えられる方剤

柴胡加竜骨牡蛎湯 梔子豉湯  清営湯 黄連解毒湯  三黄瀉心湯 交泰丸
導赤散 清心蓮子飲 黄連阿膠湯 帰脾湯 人参養栄湯 二至丸 左帰飲 炙甘草湯
 二仙湯 磁朱丸 朱砂安神丸 珍珠母丸 天王補心丹 柏子養心丸 酸棗仁湯 
甘麦大棗湯 血府逐瘀湯 建れい湯 天麻鈎藤飲 抑肝散 猪苓湯 温胆湯
十味温胆湯  清気化痰丸 滾痰丸

2013年6月4日火曜日

精と陰陽

人体を構成する最小単位は精、陰・陽、気、血、津液であり、
今回は精と陰陽の関係についてです。
この場合の陰陽は生態の構成単位、基礎物質としての陰陽であり、病や体質、環境などの偏向ではない。むろん結果としては同じ現象を表すことになるのかとは思う。
「陰」「陽」は精を元に作られる。
精にはご承知の通り、父母から受け継いだ先天の精と飲食物、水穀の精微から滋養される後天の精とがある。

・先天の精  先天的に備わった精 元精
・後天の精  飲食物より五臓で産生された精

 五臓で生成された後天の精は各臓の働きを維持し、その余剰は腎精として腎に蓄えられる。命門へ送られ「先天の精」の働きで全身の陰陽を生成する。
そして、命門で生成された陰陽は三焦を介して全身の五臓六腑に運ばれて各臓腑の陰陽になる。

陰陽の作用は、すべての生理機能が必要とする整理環境を産出し維持することである。そのために陰陽の協調平衡が必要。
「陽は温煦を主り、陰は涼潤を主る。」
代表的な陰陽の役割である。
結論としては人体、生命の根源は精であると言うことかと思う。

2013年3月19日火曜日

生薬の修治3 熟地黄について

以前に生薬の修治に関して投稿した際に地黄については記述していなかったかと思う。
地黄については自身の経験から感じ取れたところが大いにあったからである。
地黄の用い方には、

・生地黄:採取した地黄そのままである。熱証の皮膚疾患などに使われる。

・乾地黄:普通に地黄と呼ばれるものである。地黄を乾燥させ、自然に空気の酸化を受け黒くなったものである。ちなみに酸化を受けていない地黄は薄い褐色である。

・熟地黄:縮砂酒をまぶし長時間蒸した後に天日干しをする作業を繰り返したものである。地黄本来の寒性は完全に消え、補腎作用が増強され、腎陽虚に用いられる。

特に述べたいのは、熟地黄に関してである。
現在、漢方薬原料、調剤用生薬として流通している地黄は、乾地黄と熟地黄である。
乾地黄は問題ないとして、
熟地黄に関しては、大変手間のかかる修治方であり、完全な修治がなされてから流通しているとは考えいにくい。事実、再度修治しなおすと明らかに効果に違いが実感できた。
特に確実な補腎効果を求めたい場合は、ぜひ仕入れた熟地黄を、もう1,2度修治しなおして欲しい。効果の違いが感じられるはずだ。
通常、熟地黄の修治は、地黄500gに縮砂酒200mlを霧吹きで噴霧し6時間ほど蒸し器で蒸し、その後、天日で十分に乾かす。この作業を数回繰り返す。
生地黄から修治を繰り返した経験からすると、最低限4,5回繰り返す必要が感じられた。
熟地黄として仕入れたものは、もう一度繰り返すだけで十分違いは感じられる。
いずれにしても重要なのは天日干しである。
日光に当てることにより甘みが増してくる。

※縮砂酒について、
 縮砂50gを紹興酒500mlに半年以上つけ込んだものが縮砂酒である。
 ただし、紹興酒200mlに縮砂の煎じ液(20gを100mlから50mlに)を 加えたもので代用できるし、この方が管理が楽だし、実際の出来も悪くない。

熟地黄が鍵を握る場面は実際の治療では少なくないと思う。
ぜひ手間を惜しまず、修治し直して欲しい。
必ず違いが実感できるはずだ。

2013年2月4日月曜日

温中散寒剤と便通

日本における漢方薬の使われ方に時としてユニークを通り過ぎ驚かされることがある。
主にエキス剤が用いられているので大きな事にならずにすんでいるのだろう。
そんな例の一つとして、
慢性便秘に大建中湯が用いられていることがある。

ツムラの添付文書の効能には“腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの”
と書かれている。これは間違っていない。

大建中湯の構成生薬は蜀椒、乾姜、人参、膠飴
 蜀椒:熱        補       燥        升        散
 乾姜:温        補       燥        升        散
 人参:温        補       潤        升        収
 膠飴:温        補       潤        升        収
 ────────────────────
大建中湯 温 補  升

腹が冷えれば下痢をする。
これが人間に普通に起こることである。

慢性的な便秘にある体質は、
熱、実、燥、升、収のいずれかが含まれる。

大建中湯が慢性便秘を治せる可能性は、
その潤性だけに負わされる。
他はより便秘にさせるか影響しない性質である。
大建中湯の潤性は膠飴に由来する。

ここで大建中湯の本来の効能を見てみると

温中散寒、解痙止痛、補気健脾
あるいは温中補虚・降逆止痛

蜀椒を用いるほどであるのだから、何らかの理由で急激に強烈な腹部の冷えが起き、
腸管が激しく痙攣する状態、
つまりイレウスであり、日常的な病態ではない。

慢性便秘などの日常的な症状に使う薬ではない。

潤性だけをあてにしているのであれば、小建中湯を用いた方が効果的である。
また傷陰のリスクも減るだろう。

ついでに書くと、
 小建中湯:便秘
 桂枝加芍薬湯:下痢
この使い分けさえ理解出来ずにいる専門家もいるらしい。







2013年1月27日日曜日

小柴胡湯からの派生方剤

ほとんどの漢方方剤、特に国内でエキス剤として使用されている処方などは、
もともとの基本的な方剤に立ち返って考えることで非常に理解しやすくなる。
今回は小柴胡湯からの派生方剤である
柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、柴胡加竜骨牡蛎湯についてまとめてみる。

小柴胡湯

・構成生薬の薬性と帰経はこうなっている
 黄芩 寒瀉燥降収 肺、心、胆、小腸、大腸
 柴胡 寒泻燥降散 胆、肝
 半夏 温補燥降散 胃、脾
 生姜 温補燥証散 肺、胃、脾
 大棗 温補潤降収 脾
 人参 温補潤升収 肺、脾
 甘草 平平潤平収 十二経

  小柴胡湯の主剤は柴胡、人参であり、
 柴胡の寒性、人参の補性により方剤の基本性質が決定されているので、
 小柴胡湯は胆経の熱証、脾経の虚証に最も反応性が高い。

 小柴胡湯は主に胸部から上腹部に関連する熱性疾患、感染症のために作られた方剤である。感冒、肺炎、気管支炎、急性胃炎など上部消化器疾患、それと膵炎、肝炎などにも使われる。
ここで注意が必要なのは、大まかに言えば小柴胡湯は胆経までの症状に使う方剤であり、胆経というのは胆力、つまりは気力で耐えられる症状までである。
自力で生活が出来る程度の症状であり、寝たきり、あるいは進行した肝臓癌や肝硬変に用いる事はあり得ない。20年ほど前に頻繁に引き起こされた小柴胡湯の問題は、無知な医師、メーカーによって起こされた人災である。

柴胡桂枝湯

この方剤は小柴胡湯に痛みの症状を軽減する作用を持たせたものである。
桂枝湯+小柴胡湯などという低次元なことではない。

 小柴胡湯 
   柴胡 熱       胆
   人参  虚      脾
  +桂枝 温補燥升散   膀胱、肺、心
  +芍薬 涼補潤降収   肝
 柴胡桂枝湯 熱虚

 方剤としての帰経、薬性は小柴胡湯と変わりはない。

柴胡加竜骨牡蛎湯

小柴胡湯 
   柴胡 熱       胆
   人参  虚      脾
  ー甘草 平平潤平収   十二経
   竜骨 平補燥降収   心、腎、肝
   牡蛎 平補燥降収   胆、腎、肝
   桂枝 温補燥升散   膀胱、肺、心
   茯苓 平補燥降収   肺、心、胃、腎

柴胡桂枝乾姜湯

小柴胡湯 
   柴胡 熱       胆
   人参  虚      脾
  ー半夏 温補燥降散   胃、脾
  ー生姜 温補燥升散   肺、胃、脾
  ー大棗 温補潤降収   脾
  ー人参 温補潤升収   肺、脾
   桂枝 温補燥升散   膀胱、肺、心
   乾姜 温補燥升散   肺、心、胃、脾、腎
   栝楼根 寒泻潤降収  肺、胃
   牡蛎 平補燥降収   胆、腎、肝




 


2013年1月6日日曜日

方剤帰経(方剤と病位の一致)

方剤はそれぞれ対応する帰経、病位に対して反応性を持つ。
現代医学的な症状が同じでも病位(病の深さ)が異なれば用いる方剤は異なる。
その方剤が対応する病位が方剤帰経である。
方剤帰経は原則的にその方剤の主剤が持つ薬物帰経により決まる。
代表的な方剤を帰経ごとに分けてみた、方剤によっては複数の帰経を持つ。


膀胱経、肺経

越婢加朮湯、五虎湯(肺)
葛根湯、葛根湯加川芎辛夷(肺)、葛根加朮附湯、桂枝湯(膀胱)、桂枝加黄耆湯、
桂枝加葛根湯、桂枝厚朴杏仁湯、桂枝加朮附湯(膀胱))、桂麻各半湯、香蘇散
小青竜湯、消風散(膀胱)、升麻葛根湯、辛夷清肺湯(肺)、参蘇飲(肺)、
神秘湯(肺)、清上防風湯(膀胱)、川芎茶調散(膀胱)、治頭瘡一方(膀胱)、
麻黄湯、麻杏甘石湯、麻杏薏甘湯

心・心包・胆経

甘麦大棗湯、桔梗湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、柴陥湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝湯、
柴朴湯、酸棗仁湯、三物黄今湯、小柴胡湯、大柴胡湯、治打撲一方、排膿散、排膿湯、
排膿散合排膿湯

胃・小腸・三焦・大腸経

黄今湯(大腸)、黄連解毒湯、黄連湯、乙字湯
安中散、黄耆建中湯、九味檳ろう湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬大黄湯  、桂枝茯苓丸、
三黄寫心湯、四逆散、小建中湯、小半夏加茯苓湯、大黄甘草湯(大腸)、*大柴胡湯
二朮湯、二陳湯、半夏厚朴湯、半夏寫心湯、白虎加人参湯(大腸)、平胃散、
麻子仁丸(大腸)、苓桂朮甘湯

脾経

茵陳蒿湯、茵陳五苓散、荊芥連翹湯 胃苓湯、帰脾湯、桂枝人参湯、啓脾湯、
四君子湯、梔子柏皮湯、潤腸湯、清暑益気湯、大黄牡丹皮湯、大建中湯、大承気湯、
調胃承気湯、釣藤散、腸廱湯、通導散、桃核承気湯、人参湯、半夏白朮天麻湯、
茯苓飲、茯苓飲合半夏厚朴湯、防已黄耆湯、防風通聖散、補中益気湯、木防已湯、
六君子湯、竜胆寫肝湯

腎経

加味帰脾湯、桂芍知母湯、牛車腎気丸、呉茱萸湯、五淋散、五苓散、柴胡桂枝乾姜湯、
柴苓湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、十味敗毒湯、四苓湯、真武湯、清心蓮子飲、
竹如温胆湯、猪苓湯、当帰建中湯、麦門冬湯、八味地黄丸、麻黄附子細辛湯、薏苡仁湯、
抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、苓甘姜味辛夏仁湯、苓姜朮甘湯、六味丸

肝経

温清飲、加味逍遙散
温経湯、芎帰膠艾湯、芎帰調血飲、五積散、柴胡清肝湯、七物降下湯、四物湯、
炙甘草湯、十全大補湯、清肺湯、疎経活血湯、大防風湯、猪苓湯合四物湯、当帰飲子、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯、当帰芍薬散、当帰湯、女神散、人参養栄湯