2012年12月17日月曜日

病位論

漢方・中医学では、部位・深度と重傷度で病気の位置を捉えている
例えば、表と裏と言う概念がある。
表は体表部でより上部で背部の部位であり、同時に急性期の病気であることを意味する。
裏は体の内部、内側であり、慢性的な経過をたどっている病気と言える。
六経は傷寒論で用いられている病位論であり熱寒と組み合わせることで病の進行を簡易に理解しようとする省略形である。
十二経絡による分け方がもっと細かい。
厳密な分け方をすると、膀胱・肺は表証であり、肺経は呼吸器までの病気。膀胱経は肺経以外の急性疾患すべてであり、急激に進行して死に至る病までも含む。

心経
イライラ、のぼせ、手のほてり、不眠など情緒的な症状が主で肉体的な疾患がない段階。

心包経
心包とは心下にある袋、つまり胃を指し、精神的な症状が胃に影響を与えている段階である。


胆経
胆力という言葉がありますが、胆経の病とは、気力によって克服できる段階の症状、疾患と言える。
過敏性大腸炎や神経性膀胱炎など、もっと深い位置にあるように思われますが、その多くは胆経の病である。

胃経
これはもう気力だけでは乗り切ることのできない、明らかな胃腸疾患がみられる段階。
急性胃炎、感染性胃腸炎などは胃経から侵襲される病であり、
慢性的な、常に便秘、下痢といった状態も胃経として扱わなければならない。

小腸経
血液、汗、尿に関する病。

三焦経
焦とは、焦げるであり、炎症、化膿を意味する。

大腸経
全身機能のバランスが乱されている段階。

脾経
卑とは大事なものをしまっておく器のことで、人体にあてはめれば栄養状態のことで、
脾経の病とは(明らかに)瘰痩、肥満がみられる、またはそれによる疾患と言える。
最近言われるメタボリックシンドロームは、実は脾経の段階まで達している深刻な病である。

腎経
基本的な生命力が侵された段階。
内分泌、心臓、腎臓、生殖などに関わる病。

肝経
人体にとって最後の防衛戦。干は盾であり、国王みずからが盾を持って戦う段階となる。
ほとんど不可逆性の構造障害、起床不能、尿崩、便閉、常時出血など、
ほとんど死との戦いという段階であり、また長期的な血液症状ということで、女性の生理、生殖等に関わることは、肝経として扱うべきものが多い。


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表裏
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六経  熱証太陽病少陽病陽明病少陰病厥陰病
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    寒証太陰病
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三焦上焦中焦下焦
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四要衛分気分営分血分
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経絡膀胱経肺経心経心包経胆経胃経小腸経三焦経大腸経脾経腎経肝経

2012年12月10日月曜日

方剤の成り立ち〈基本方剤からの派生〉第2回

前回の方剤を薬味から見ていくと
麻杏甘石湯の構成生薬は甘草、石膏、麻黄、杏仁

それぞれの薬性・薬向は
甘草:平平潤平収
石膏:寒泻潤降散
麻黄:温泻燥中散
杏仁:温泻潤降散

主剤は石膏、麻黄であり、
方剤の薬性は主剤によって決まるので、
麻杏甘石湯は石膏の寒性、麻黄の泻性によって薬向が決定されている。


甘草:平平潤平収
石膏:泻潤降散
麻黄:温燥中散
杏仁:温泻潤降散
────────
麻杏甘石湯:寒泻

つまり麻杏甘石湯は石膏の寒性で熱をとり、麻黄の泻性で病邪を追い出す効果を持つ事になる。

続いて麻杏甘石湯の派生方剤である大青竜湯は、麻杏甘石湯に桂枝が加わった方剤である。生姜・大棗は麻黄・桂枝による傷陰を防ぐためであるので考えなくて良い。

麻杏甘石湯:寒泻
桂枝   :温補燥升
───────────
大青竜湯 寒泻(潤降)散

桂枝の発散作用により、解熱作用、祛風作用を強めた方剤である。

五虎湯は桑柏皮を加える事により、降性、つまり咳を鎮める働きを強めている。


麻杏甘石湯:寒泻
桑柏皮  :寒泻燥散  
───────────
五虎湯  :寒泻潤降散

越婢加朮湯は麻杏甘石湯に利水作用を持たせた方剤の一つである。


麻杏甘石湯:寒泻
蒼朮   :温泻升散 
ー杏仁  : ー潤
───────────
越婢加朮湯:寒泻燥降散

蒼朮により燥性を加えるとともに、潤性の強い杏仁は邪魔になるので加えない。

白虎湯は次のようになる。

甘草 :平平潤平収
石膏 :泻潤降散
知母 :寒潤降散
硬米 :涼補潤降散
───────────
白虎湯:寒補潤降散


※薬性、薬向(病性、病向)についてはこちらを参照されたい
漢方コラム

2012年12月4日火曜日

方剤の成り立ち〈基本方剤からの派生〉第1回

表証用方剤の基礎

今回は方剤の成り立ち方、どうして構成生薬が決まったかについて書いてみる。
まず表証用方剤(主に風邪症状に用いる方剤)についてまとめてみた。

                    ┌ーーーーーーーーーー大青竜湯
                    |(桂枝、生姜、大棗)
         ┌ーーーーーー温病湯ーーーーーーーーーー五虎湯
         │(麻黄、杏仁)   |(桑柏皮)
    ┌───┤          └湿ーーーーーーーーーー越婢加朮湯
    │(石膏)|           (蒼朮、生姜、大棗、ー杏仁)
    │    └ーーーーーー白虎湯
    │     (知母、硬米)   
───┤               ┌ーーーーーーーーーー葛根湯
(甘草)|               |(葛根、生姜、大棗、芍薬、ー杏仁) 
    |    ┌ーーーーーー麻黄湯升鬱ーーーーーーーーー神秘湯
    |    │(麻黄、杏仁)   |(厚朴、紫蘇葉、陳皮、柴胡、ー桂枝)
    |    |          └湿ーーーーーーーーーー小青竜湯
    |    |           (乾姜、細辛、五味子、半夏、芍薬、
    └───┤            ー杏仁)
     (桂枝)|          ┌ーーーーーーーーーー桂枝加葛根湯
         |          │(葛根)
         |          ├寒湿ーーーーーーーーー桂枝加朮附湯
         └ーーーーーー桂枝湯┤(蒼朮、附子)
          (芍薬、生姜、大棗)├ーーーーーーーーーー桂枝加厚朴杏仁湯
                    |(厚朴、杏仁)
                    └ーーーーーーーーーー桂枝加黄耆湯
                     (黄耆)
表証つまり急性・急迫症状であるので、それを緩和するために必ず甘草が入ります。
熱証であれば石膏、更に風邪症状に対する方剤ですから実証であれば麻黄、杏仁が入り、温病湯(麻杏甘石湯)となります。
熱実証の風邪症状、発熱・咳には麻杏甘石湯が基本方剤となります。
そして、収敵症状つまりは発熱、鼻づまりなどが顕著な場合は発散作用を強化するために桂枝を加え、桂枝麻黄の一方的な発表作用により陰液の消耗を来さないよう生姜・大棗を加えます。大青竜湯となるわけです。
升的症状、この場合は咳ですね。咳がひどいときは桑柏皮を加え咳を鎮める降性を強めます。五虎湯です。
湿症状、風邪なら鼻水など、あるいは関節痛、浮腫などがある場合は蒼朮を加え、湿性の強い杏仁を抜きます。越婢加朮湯となります。
虚証の場合は、知母、硬米、寒性の補薬を用います。白虎湯となります。
寒証の場合は桂枝が入ります。熱証の場合と同じように実証なら麻黄、杏仁を加え麻黄湯となります。
虚証ならば芍薬、生姜・大棗を加え桂枝湯となります。
それぞれ麻黄湯、桂枝湯を基本方剤として派生方を作っていくことが出来ます。